【対北情報戦の内幕-9-】あるエリート公安調査官の栄光と挫折
「工作船の携帯電話から彼の携帯電話番号が出てきたと聞いたときは、正直驚きました。彼は総務に即日異動となり、本庁からの“査問”も受けました。その後、マスコミの目が届かない地方に転勤。他の職員と顔を合わさないようパーテーションで区切られた区画に机だけ置かされ、事実上の監視下に置かれていたようです。
確かに彼は、関東局、いや3部門(注:北朝鮮担当)全体でも、トップの実績を挙げていたと思います。単なる調査官というよりも、裏人脈を活用し、政界やマスコミをも巻き込む情報ブローカーのように振舞っていました。
しかしそれも、『虎穴に入らずんば虎子を得ず』と言われるとおり、高度な情報を取るためには自らも対象に胸襟を開かねばならないからです。実際、彼が集めてくる金正日体制の動静やミサイル・核開発についての情報は、内外で高く評価されていたと聞いています。ただ、私は彼が北朝鮮に内通していたとは思いませんが、北朝鮮側も彼との接触の中で、日本側の情報を引き出そうとしていた可能性はあります」
朝鮮総連からカネ!?
人との接触の中で情報を引き出すHUMINT(人的情報活動)においては、「ミイラ取りがミイラになる」という副作用から無縁でいられる者は少ない。