北朝鮮「拝金主義」共和国でバカを見たある軍人の不運
昨年12月、北朝鮮の国境警備隊の軍官(将校)3人が家族を動員して、松の実や薬草を中国に密輸した容疑で当局に摘発された。3人は職務停止となり、警備総局の保衛司令部(秘密警察)で取り調べを受けた。
最近、調査結果と処分の内容が発表されたが、疑問の声が上がっていると両江道(リャンガンド)の内部情報筋が伝えてきた。
警備総局は、密輸に関わった国境警備隊の中隊長を解任した上、労働鍛錬隊6ヶ月の刑を言い渡した。労働鍛錬隊は軽犯罪者向けの刑務所で、一般刑務所の教化所、強制収容所の管理所と比べればマシと言われるが、強制労働、不衛生な環境、看守の暴言、暴力など「人権侵害の総合商社」であることには変わりない。
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一方、同様に密輸に関わった政治指導員と保衛指導員は、お咎めなしで元のポストへの復帰が決まった。関与の度合いから言えばこの2人の方が中隊長より重いが、事実上の無罪放免となったのは、ワイロのおかげだ。現在の北朝鮮では、社会のあらゆる場面で、あらゆる形のワイロがやり取りされるのだ。
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3人が摘発されたのは、金正恩党委員長の掲げる不正腐敗との闘いの一環として、朝鮮労働党が大々的な検閲(監査)を行っているときのことだ。金正恩氏の指示で行われた検閲での摘発だけあって、非常に厳しい処罰が予想された。
3人は、経緯書と共に捜査機関等に多額のワイロを送り刑事処罰の免除を求めた。その額は政治指導員と保衛指導員が2000元(約3万3000円)。生活の苦しい中隊長は200元(約300円)しか出せなかった。それで、中隊長が担ったのは密輸分の3分の1以下なのに、より重い処罰を受けてしまったというわけだ。
同じ罪を犯したのに罪を悔いているかではなく、ワイロの額で処分が決まったということだ。「貧しい中隊長が3人分の処罰を1人でかぶった」(情報筋)という声が上がるのは当然のことだろう。
しかし、北朝鮮においてワイロの額が量刑を左右するのは半ば常識だ。両江道の保衛部(秘密警察)は、中国キャリアの携帯電話を使用した容疑で逮捕した人に3つのコースを示し、ワイロを取り立てる。5000元(約8万3000円)なら釈放、半分なら懲役半年、一銭も払わないなら懲役1年といった具合だ。
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「地獄の沙汰も金次第」を地で行くのが、拝金主義にまみれた今の北朝鮮だ。