金正恩は消えた「若い女性通訳」に何をしたのか
韓国紙・朝鮮日報は5月31日、北朝鮮消息筋の情報として、2月末のハノイでの米朝首脳会談が決裂した責任を問われ、金英哲(キム・ヨンチョル)朝鮮労働党副委員長が革命化(再教育)措置となり、金正恩党委員長の妹・金与正(キム・ヨジョン)党中央委員会第1副部長は謹慎させられていると伝えた。
しかし、この2人はすでに健在が確認されている。ただ、2人ともハノイでの会談決裂から相当期間、公式の場に姿を現さなかったので、何らかの形で問責が行われたのか、まったく行われなかったのかは判断が難しい。
一方、同紙は同じ記事で、米国との事前交渉に当たっていた北朝鮮国務委員会の金革哲(キム・ヒョクチョル)対米特別代表が、3月に平壌郊外の美林(ミリム)飛行場で銃殺されたと報じた。美林飛行場は、過去にも公開処刑が行われてきた場所だ。
(参考記事:機関銃でズタズタに…金正日氏に「口封じ」で殺された美人女優の悲劇)
同紙はまた、対米外交を統括してきたさらに金革哲氏らと事前交渉に当たった女性幹部の金聖恵(キム・ソンへ)党統一戦線部統一策略室長とシン・ヘヨン通訳官は、政治犯収容所に送られたとしている。実在する「地獄の1丁目」とも呼ばれる政治犯収容所から、女性が五体満足で生還するのは難しい。
(参考記事:若い女性を「ニオイ拷問」で死なせる北朝鮮刑務所の実態)
6月30日に板門店(パンムンジョム)で行われた米朝首脳の対面時にも、この2人の姿は見えなかった。
ただ、朝鮮日報の報道内容には疑問を呈する声も少なくない。金革哲氏については、4月13日に本人を目撃したとの情報が出ている。
それにそもそも、金正恩氏は部下の「裏切り」や「怠慢」に対して厳罰を与えたことはあるが、「失敗」を理由に罰した例は確認されていない。
たとえば「裏切り」の代表的な例は、叔父である張成沢(チャン・ソンテク)元党行政部長だ。国家転覆陰謀罪で処刑し、彼に連なる人々に対しても大粛清を行った。
(参考記事:「幹部が遊びながら殺した女性を焼いた」北朝鮮権力層の猟奇的な実態)
他方、北朝鮮のミサイル技術者たちは当初、中距離弾道ミサイル「ムスダン」の発射実験などで失敗を繰り返したが、それにより罰せられたとの話は伝わっていない。むしろ金正恩氏は期待をかけ続け、彼らが成果を出したときには大いに称賛している。
これについてはもちろん、「ミサイル技術者たちは北朝鮮の最も重要なエリートたちだから」という見方も可能だろう。しかしそれならば、金聖恵室長もシン・ヘヨン通訳官も比較的若い年で、しかも女性でありながら、男性本位の北朝鮮社会でスポットライトを浴びたエリートだ。金正恩氏が、そう簡単に「使い捨て」にするとも思えない。
もっとも北朝鮮は、最高指導者の権威を傷つけることは「政治的事件」と見なされるお国柄だ。金正恩氏の権威が、ハノイで著しく傷ついたのは事実だ。そのことで、誰かが重大な責任を問われている可能性は消えない。